DobermanName:Bolt(♂・2m/o)Lelia(♀・4y/o) Owner:ruby様
今回の記事は少々専門的な情報ばかりの内容である。しかし、ドーベルマンついて、より高度な知識を得たいと願う愛好家や、繁殖を考える者にとって、仔犬の健全性に密接な関わりのある【ドーベルマンの継承可能な毛色】は、外せない知識だろう。
以下では、全コートカラーの遺伝子型と表現型をグラフ可している。生まれてくる仔犬のカラーのおおよそが予想できるのであれば、その逆もまた然り。ドーベルマンの健康面のリスクを、最小限に抑えるための知識となるなら幸いである。
ブラックとチョコの関係
一覧をみる前に、まずはグラフの読み方である。
ドーベルマンのコートカラーを決定する遺伝子には、主に、被毛を黒(ブラック)にする【B】遺伝子と、茶(チョコ)にする【b】遺伝子が存在する。
このことを一般に、
- B=被毛を黒(ブラック)にする優性遺伝子
- b=被毛を茶色(チョコ)にする劣性遺伝子
という。
遺伝子の話において、優性遺伝子をアルファベットの大文字で、劣性遺伝子を小文字で表記するのが一般的である。これは、優性や劣性を目視で分かり易くあらわすためである。
【優性】や【劣性】という概念は、どちらがより優れているかではなく、どちらがより表面(体表)に現れやすいか、という点を示している。
平たく言うならば、【アルファベットの大文字が体表にあらわれる】である。※このことを専門用語で【優性の法則】という。
図の右側の4つのマスは、親が仔犬へ伝える遺伝子のパターンを全て書き出している。父犬が仔へ遺伝子Bを伝えた場合と遺伝子bを伝えた場合、母犬が遺伝子Bを伝えた場合と遺伝子bを伝えた場合のものである。
ここで注意してほしいのが、両親が仔犬へ遺伝情報を伝える時、遺伝子(Bb)をそっくりそのままコピーして伝えるわけではない、という点だ。生物は遺伝情報をうまい具合に調節しながら、仔に伝えている。
【犬】であれば、常に遺伝子数(染色体数)は78本である。そのため、親は自らの遺伝子数78本を39本に分裂させて仔に伝えている。父犬から39本、母犬から39本を受け取った仔は、はれて【犬】=(染色体数78本)として誕生できるのだ。
この【分裂】により、犬の毛色を司る11番目の遺伝子(Bb)は、それぞれ(B)と(b)に分かれ、そのどちらか一方が仔犬に分配されることになる。※この【分裂】の事を専門用語では【分離の法則=減数分裂】とも言う。
以上を踏まえ、上の図を翻訳してみよう。
すると、【(Bb)という遺伝子を持つ、ブラックの両親をかけ合わせた結果、およそ75%の割合でブラックが生まれ、25%の割合でチョコの仔犬が生まれてくる】と予測を立てることができる。
そしてその逆として、【ブラックの両親からチョコが生まれた】ということは、親犬は共に、優性遺伝子【B】と、劣性遺伝子【d】を持った個体であると判断できるのだ。
ブルーとフォーン(イザベラ)、そしてホワイト
ドーベルマンの毛色にはブラックとチョコを決定する遺伝子の他にブルーとフォーン(イザベラ)を決定する遺伝子がある。それは、希釈(濃淡)遺伝子である。
この希釈遺伝子にも優性・劣性があり、ブラックとチョコの時と同様、アルファベットの大文字【D】と小文字【d】で表記される。
D='Dilution'(希釈)を意味し、
- D=色素を希釈しない優性遺伝子
- d=色素を希釈する劣性遺伝子
という。
現在、明らかになっているドーベルマンのコートカラー(4色:ブラック、チョコ、ブルー、フォーン)は、色素をブラックやチョコに決定する遺伝子Bやb、その色素を希釈する遺伝子Dやdの組合せによって決定している。
この希釈(濃淡)遺伝子の存在を明らかにしたのは、アメリカの遺伝学者Clarence Cook Little博士である。しかし、その彼が未だ全て解明できていない希釈遺伝子が存在する。それが、ホワイトドーベルマンのコートカラーに関与する遺伝子【C】とその劣性遺伝子【c^α】の存在である。
かつて、アルビノは遺伝子変異によって引き起こされるものと考えられていた。加えて、アルビノには一切の色素がない、と。しかし、ホワイトドーベルマンを研究することで、それは誤りだと判明した。なぜなら、ホワイトドーベルマンの中に、わずかながらに色素を有し、かつ、色素を司る遺伝子に一切の変異が起きていない個体が見つかったからだ。この発見により、それまでのアルビノを決定づけている遺伝子の考え方を改める必要が生じた。
現時点で、
- 優性【C】=色素の希釈なし。
- 劣性【c^α】=アルビノ(眼皮膚白皮症)
と予想されているが、遺伝子の突然変異でアルビノが生まれる可能性もゼロとは言えないため、やはり予測の域を出ていない。
加えて、この遺伝子【c^α】が、他の劣勢遺伝子【b】や【d】のように、常に犬の染色体上に存在しているのかどうかも、未だ解明されていないのだ。
ゆえに、ホワイトカラーもドーベルマンのカラーの1つではあるのだが、以下でまとめたグラフには含めていない。メラニスティック・ドーベルマンに関しても同様である。
ドーベルマンのコートカラー・チャート(遺伝子型一覧)
・●…ブラック・タン/●…チョコ・タン/●…ブルー・タン/●…フォーン(イザベラ)・タン
・%は、仔に発現するカラーの割合(分離比)である。
コートカラー・チャート(表現型一覧)
この図から、ブラックタンは4種の遺伝子パターンからなり、チョコタンやブルータンは2種の遺伝子パターン、フォーンは1種の遺伝子パターンからなる。
ここで、ドーベルマンの健康面に関して着目すべきは、色素を希釈させる遺伝子【d】の存在である。
ドーベルマンは一様に、皮膚に問題を抱える個体が非常に多い犬種である。その中でも特に、希釈(濃淡)遺伝子は実質的に多くの健康被害をもたらすと予測される。現実に、ブルーやフォーン、特にホワイトではそれらの影響が顕著にあらわれているため、日本を含め多くの国で、繁殖ラインから外す取り組みが行われている。
【遺伝】と【血統】は切っても切れないジレンマの中で確立している。これらのチャートは、健全なドーベルマンのための知識の1つとして役立てて頂ければ幸いである。
<ruby様、この度はBoltくんとLeliaちゃんの写真のご提供、誠にありがとうございました。>