ドーベルマンの心音に潜む【闇】をあなたはご存知だろうか。今もなお、世界中のドーベルマンの多くが、なんの前触れも無く、突然、その生命を失っているという現実を・・・
健全なドーベルマンの徹底した繁殖を願う愛好家は遥かに多く、“自分と同じような悲しみを経験してほしくない”という彼らの願いはとても強いーー
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ここからの内容には、ドイツで研究されたドーベルマンの有病率データを具体的に記載している。その数値に、思わず心を乱されてしまう飼い主もいるだろう。しかし、決して動じないで欲しい。愛犬を前に悲観的に考える必要もない。
これから生まれてくるドーベルマンのために、【今】ドーベルマンの飼い主である私達が、【知識】として得ることがなによりも大切なのだ。そして、ほんの僅かな行動と認識の変化で、【未来】のドーベルマンからそれらリスクの多くを軽減できるものであると信じてほしい。
拡張型心筋症:Dilated Cardio Myopathy (DCM)
世界中で多くのドーベルマンが、その生命をなんの前触れも無く失っている重い遺伝病と言えば、【拡張型心筋症(DCM)】を即座に思いつく愛好家は多いだろう。
【DCM】とは、心筋の収縮力(ポンプ作用)が著しく低下することにより引き起こされる心疾患の1つである。そして、それはドーベルマンの場合、殆どが先天的だ。つまり、親から仔へ遺伝し、発症している。
【DCM】の兆候と言えば、心音の異変である。心音に雑音が混じったり、独特な心音を発している場合に、この病気が疑われるのだがー・・・
普段から愛犬の心音に注意を払う飼い主は、はたしてどれくらいいるだろうか?
「なんの前触れも無く、突然に…」これも、ドーベルマンの飼い主へ多大な悲しみを与える【DCM】の特徴の1つである。
ドーベルマンのDCM有病率データ
拡張型心筋症(DCM)の3大犬種といえば、【ドーベルマン】【ボクサー】【グレート・デーン】が挙げられる。そして、その中でもとりわけ高い発症率を有し、最も予後が重いとされるのが、成熟期のドーベルマンだ。
以下の統計は、ドーベルマンの原産国ドイツの最大都市ミュンヘンにあるルートヴィヒ・マクシミリアン大学(LMU Munich)の、小動物医学研究チームが発表したデータである。
【齢別ドーベルマンのDCM有病率(%)】
- 0〜2歳【3.3%】
- 2〜4歳【9.9%】
- 4〜6歳【12.5%】
- 6〜8歳【43.6%】
- 8歳以上【44.1%】
※有病率とは、ある地域内の発症したドーベルマンの数をその地域内全体のドーベルマン数で割ったもの
【オスとメスの性差】
- オスはメスの1.5倍多く発症
- オスとメスでは、症状の発現および進行の違いがみられる
【ドーベルマンの発症傾向】
- ドーベルマンの累積有病率【58.2%】
- 3〜7歳のオスのドーベルマンに多発
- オス、メスともに8歳以上の成熟期のドーベルマンに多発
- 遺伝子結果ノーマル(クリア)個体にも発症報告有
【ドーベルマンのDCM遺伝子】
- ドーベルマンの【DCM遺伝子】は、【常染色体の優性遺伝】である。仔の発症リスクを軽減させるためには、親犬両方が共に【クリア(ノーマル)】でなければならない。
⬇例:オスがDCM遺伝子(ホモ接合型)を持っている場合【メスはクリア】
⬇例:メスがDCM遺伝子(ホモ接合型)をもっている場合【オスはクリア】
図からも、この【DCM遺伝子】が、いかに発症率が高い遺伝子で、仔への影響力も高いかがわかるだろう。
【アメリカ、カナダのドーベルマンDCM有病率】
- 45%〜63%と、上記(ドイツ)のデータと酷似
最大の予防【遺伝子検査】
他の犬種と比較しても、ドーベルマンの【DCM】発症率は非常に高い。また突然死のリスクは最大と言われている。ゆえに現時点でドーベルマンのみ、【DCM】の遺伝子検査が海外の研究機関で可能となっている。
この遺伝子検査だけが、ドーベルマンから【DCM】のリスクを軽減させるための唯一の方法になるのだ。
いくつかのドーベルマン犬舎は、自身のホームページ上で遺伝子検査結果を公表していたり、連絡すれば開示してくれる。もしもドーベルマンを譲り受ける際、遺伝子検査結果を確認出来ていないのであれば、改めて犬舎のホームページを見てみよう。
両親(父犬・母犬)共にノーマル(クリア)が公表されていれば
その仔はひとまずは安心だ。
(※注意※)「ひとまずは」と表現するには理由がある。ドーベルマンは遺伝子結果ノーマル(クリア)の個体でも成熟期(8歳〜)に発症する可能性があるからだ。
もし公表されていなければ…、自分で遺伝子検査を行うしかないわけだが、犬の遺伝子検査と聞くととても大変な作業を思い浮かべるかもしれない。ましてや海外となると、「無理そう…」となってしまう人は多いだろう。
しかし、安心してほしい。
自分で遺伝子検査を行う愛好家のために、ここでその手順を紹介する。恐らく、これまでの遺伝子検査の敷居がぐんと下がるだろう。
犬の遺伝子検査と申込み手順
【オリベット(Orivet)】数少ないドーベルマンのDCMの遺伝子検査が出来る機関だ。
- まずはじめに、オリベットのアカウントを新規作成する
- アカウントを作成したら、ログインして画面左側の【犬用検査】を選択する。
- そうすると【犬種選択画面】に移動する。
- そこでドーベルマンを選択すると、⬇の画面へ移動する。
- ドーベルマンの持つ遺伝子疾患7つの検査を推奨されるが、1つから検査可能だ(9,200円)。送付した愛犬の遺伝子サンプルは研究所に保管されるため、必要な時に、必要な検査を受けるという手もあるようだが、セット検査(17,500円)というのもある。
- 検査希望の疾患にチェック、【カートへ追加】して検査の申込みを行う。
- 10日前後で【遺伝子検査キッド】⬇が自宅に届く。
- 同封されている日本語の説明書を読みながら、緑色のブラシで愛犬の口腔内をゴシゴシして、必要事項を記入して返送する。もちろん、返送宛先も日本国内だ。
- 返送が済んだら、次は検査費用の支払いを済ませる。方法は銀行振込かPayPalだ。サンプルをポストに投函した後は速やかに支払いを済ませよう。
- 支払いが済んだ後は、約1ヶ月間、検査結果が送られてくるのを待つだけだ。
そして、1ヶ月後・・・
- 【遺伝子検査結果・原本(英語)】と【日本語訳の用語表】のPDFファイルが添付されたメールが送られてきて完了となる。
原本が英語だからいっても焦る必要はない。愛犬の情報の下に、疾患名+【ノーマル/キャリア/アフェクテッド】のいずれかが記載されている。
例えば、拡張型心筋症(DCM)の検査で結果がノーマルであれば、
【DISEASE(S):Dilated CardioMyopathy-NORMAL/CLEAR】と記載されている。
補足になるが、可能なら【紙レポート発行・発送サービス(1頭/200円)】も同時に申し込むと良いだろう。このサービスに申し込むと、紙レポートも自宅に届く。紙レポートと言っても原本はしっかりとした厚紙に印刷されてくるのだ。
十分な遺伝子検査を行なったことを証明する原本は、やはりデータ+厚紙で保管していた方が安心と言えるだろう。
症状が出る前に発見することの意義
難しそうだと思っていた犬の遺伝子検査が、意外と簡単であることに気がつけただろうか。【①申込➔②口の中をゴシゴシしたサンプルを返送➔③支払い➔④1ヶ月待つだけ】なのだ。
愛犬の心音に【雑音】が交じる前に、心電図に【不整脈】が認められる前に、飼い主がDCMの可能性に気付けることがどれだけ意義のあることか。確かに費用はかかるーー・・・、しかし、それ以上のものを得られるだろう。
そして、世界中のドーベルマンの飼い主に対し、一様に勧められていることがある。それは、2歳を過ぎたドーベルマンの飼い主は、年一回の健康診断に、【心電図検査】と【エコー検査】を加えることである。
ドーベルマンはDCM発症高確率犬種であることを忘れてはならない。
遺伝子結果ノーマル(クリア)の個体の成熟期(8歳〜)の発症報告も多数上がっているからだ。
【この記事を書くにあたり多くの情報をご提供くださったドーベルマンオーナー様、大型犬オーナー様、心よりお礼申し上げます。】
<資料文献>
Prevalence of dilated cardiomyopathy in Doberman Pinschers in various age groups. - PubMed - NCBI
Blackstone Dobermanns - one journey with dilated cardiomyopathy